That's what I'm here for.

 私達がアキバの街に戻って来た頃には季節はすっかり冬色で、スノウフェルの期間真っ只中だった。スノウフェルとは<エルダー・テイル>におけるイベントで、冬至と新年の訪れを祝うセルデシア世界全域に広がる祭だ。ゲームであった頃ならば運営から期間限定のアイテムを貰えるクエストや雪だるまモチーフのモンスターの出現などが展開されていたが、現在はススキノ地方に<スノウマン>が現れている程度で、イベントの追加はない様だった。
 <円卓会議>では<D.D.D>のクラスティの失踪や参謀シロエの不在により業務に滞りが生じた為、スノウフェルにおいては大きな催しは計画できなかった様だが、イベント事の参加に積極的な一部ギルドからはアキバ内の広間スペースの使用許可等が申請されており、非公式ながらも大掛かりなイベントが開催れている。

 各言う私も、そのスノウフェルの準備の為にアキバの中心街へと足を伸ばしていた。12月20日から1月10日まで行われる催しに、何とか滑りこむ形ではあるが参加する事にしたのだ。スノウフェルには様々な風習がある。その一つがスノウフェルの贈り物だ。言い換えてしまえば、クリスマスプレゼントなのだがここは郷に従ってスノウフェルの贈り物と呼ばせて貰おう。スノウフェルの贈り物はギルド間やフレンド間でプレゼント交換を行うのだが、現在私は少し遅れてしまった贈り物の下見に来ていた。

 色とりどりの雑貨が並ぶ店を回ったが、中々スノウフェルの贈り物は決まらない。ゲーム時代には使い道のないジョークアイテムを送ったものだが、どうせなら喜ばれる方がいい。しかし生憎ギルドの仲間の好むものはあまり詳しくなかった。
 結局、女性陣には花の香りのするヘアオイルやバスグッズ、男性陣には綺麗に梱包されたお菓子などに落ち着く。どちらも貰って困るものではないし、消耗品は無難な選択だ。全てを魔法の鞄に押し込んで、軽い足取りでギルドホームへと戻った。



26



「えー今帰って来たばっかりなんだけど。まあいいよ」

 ギルドホームのリビングでコートを着込んだを捕まえて、僕はひとつ頼み事をした。買い出しの付き添いだ。も外へと行っていたのか少し面倒そうな顔をしたが、頷いてくれた彼女を引き連れてアキバの街へと赴く。

「年越しに間に合わなかったのは残念でしたが、お祭りというのは良いものですね。心が踊ります」
は皆に何か買った?」
「私も迷いましたが、無難な物に落ち着きました」

 スノウフェルの贈り物。正直、色々と処理しなければならない案件が多くてイベントどころではないが、僕達がアキバに戻った後にギルドの皆からは色んな物を受け取っていた。随分と遅れた形になるが、こういった物にはきちんと返礼すべきだろう。

「直継やトウヤ達には一応買ったんだけど……女の子には、何が良いと思う?」
「シロエさんにいただく物でしたら、何でも嬉しいと思いますよ」
「……そういう事じゃなくてさ」

 頭を抱える。まあ彼女自身も悩んだと言っていたし、あまり戦力は期待できないのかもしれない。

「そうですね、無難に消耗品も悪くはないと思いますが、何か身に付ける物などは如何でしょう?」
「身に付ける物って、マフラーとか?」
「寒さが身に堪える季節ですので、防寒具もよろしいと思います。しかし女性に贈るのでしたら、アクセサリーの方が喜ばれますよ」
「アクセサリーね……」

 の口から今までの自分とは縁遠かった単語が聞こえ思わず顔に縦線が入る。直継やトウヤが喜ぶものなら何となくはわかるが、女の子に贈り物なんて一度もした事のない自分では少しハードルの高すぎるジャンルだ。

「好意を持っている異性からの贈り物は何でも嬉しいものですが、形に残るものなら尚更です」
「好意って、別にそんなんじゃっ」
「友愛でも、同じ事ですよ」

 彼女がクスクスと上品に笑う。好意――口にするだけで気恥ずかしくなる言葉だ。おそらく、僕は隣で笑う彼女へ好意を抱いているんだろう。それが友愛なのか、それ以上のものなのか。こういった経験の少ない僕にはまだ計りきれていない。だけど彼女といると楽しいし、ホームではいつも騒がしいのに不思議と心が安らぐ。と一緒にいたいと思うし、が笑うと僕も嬉しくなる。この感情は日に日に大きくなり、僕を悩ませていた。

「私の知っているお店にご案内します。所謂パワーストーンを扱っているお店で、女性にも人気があるのですよ」
「うん、よろしく」

 彼女の案内した店は<冒険者>が運営しているらしく、アキバの街の外れにあった。店内は思いの外広く、たくさんの装飾具が展示してある。昼食時なのか客の数は疎らだ。

「こちらのお店はアミュレットとして販売していますので、宝石言葉も詳しく解説してあります。店主は、現実世界でもこういった商売をされていたらしく、造詣が深いですよ」
「アミュレットって……」
「お守りの事です。よくアイテムにも登場致しますでしょう?」
「じゃあ、宝石言葉って?」
「石にはひとつひとつ意味があるのだそうです。こちらの……アゲットは勇気・行動力・成功という宝石言葉があります。まあ宝石言葉は後から人が付けたものですし、あまりお気になさらずとも良いでしょう」

 次々と増える聞きなれぬ単語に、暗記する様にそれらを復唱した。

「なんか……がこういう事に詳しいって意外だったよ」
「シロエさんは私の性別をお忘れですか? 女たるもの、大抵はこういった事柄に興味があるものですよ」
「ご、ごめん、ごめんって」

 そう言いながら笑顔で僕の足をガシガシと踏んでいるに取り繕う様に謝る。

「では私は適当に時間を潰して参りますので、後はご自分で選んでくださいね」

 拗ねた顔で立ち去る彼女の背中を見送って、僕はうんうんと唸りながら光を受けて輝く装飾品と向かい合った。

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