That's what I'm here for.

「レベル的に見ても、私より<シルバーソード>が参加した方が合理的よ!」
「何言ってんだ、<記録の地平線>のシロエが持ち込んだレイドだ。お前が参加するのは当たり前だろう」
「だってだって、レベルはオーディソの方が上なのよ?」
「だからってお前が参加しないのは大間違い祭だろっ」
「それに、シルバーソードに比べてレベルが低いのは僕達も同じだからね」

 直継、ウィリアム、リ=ガン、てとらと卓を囲む中、は我慢できないと言う様に立ち上がった。

「それにもう、決定事項だよ」
「――もう、分かったわよ! でも何があっても知らないんだから!」

 そう言いながらはデミクァスのいるテーブルに乱入しに行く。どうやら彼女のストレス解消法らしく、絡まれたデミクァスは面倒臭そうに応対していた。

「なんかあいつ、子供みたいになったな」

 直継の言葉に頷く。確かに、久しぶりに会った彼女は変わっていた。今まで<記録の地平線>以外の前で"神官モード"を崩すどころか、声を荒げる事すらなかった筈だ。誰かを意地悪げにからかったり、浴びる様に酒を飲む姿は僕達にも初めて見せる。

「あいつはススキノに来た時からずっとああだったぞ。泥酔するとシロエを屈斜路湖に沈めてやる!って泣きだしたりな」

 ウィリアムの言葉に苦笑いで返す。

「わざわざ秘宝級の<待ち侘びる隠者の指輪>まで装備してたんで、一体何があったかとは思ってたんだが……まあ、和解したってんならよかったぜ」
「なんだっ の失踪はやっぱシロが原因だったのかっ」

 シロ元気なかったもんなぁ、と直継が僕の背中をどんどんと叩く。

「まあ、ちょっとしたすれ違いというか……シルバーソードには迷惑をかけてすみません」
「なあに、うるせえのが一人増えたくらい、問題ねぇよ」

 ガシャンと、大きな音を立ててデミクァスの机が引っ繰り返る。どうやら、が彼を怒らせたらしい。その光景にウィリアムは溜め息をひとつ吐いて、彼らに怒鳴りだした。



21



 <パルムの深き場所>の更に奥、<奈落の参道>の攻略レイドで私は第四パーティーの回復を担当していた。メンバーは<武士>羅喉丸、<暗殺者>エルテンディスカ、<妖術師>ポロロッカ、<妖術師>プロメシュース、<吟遊詩人>軟体系@アキバ、そして<施術神官>の私だ。
 最初は私がシロエ達第二パーティーの回復役として呼ばれていたが、私の希望で攻撃部隊である第四パーティーに変更してもらった。シロエは良い顔をしなかったが、ススキノで<シルバーソード>の皆と訓練して、自分は重装甲型として前衛で回復に専念するよりも、回復と攻撃、その両方を扱った方が向いていると判断したからだ。今までは過保護気味に仲間のHPを回復していたが、ススキノに来てからそのビルドスタイルは少し変化していた。
 だから私の希望を、ススキノに来てから共に戦っていたウィリアムは頷いてくれた。

「だから別に、シロエに怒っているとかそう言う訳じゃないのよ」
「うん、わかってる。ただちょっと今までと戦い方が変わってたから、驚いただけだよ」

 <奈落の参道>で携帯食料を口に含みながら、第二パーティーと話をする。最初はパーティ編成に微妙な顔をしていたシロエだったが、戦闘を見て納得したらしい。

「成長したのよ」

 そうドヤ顔で言い放った私を、シロエは久しぶりに見せた穏やかな顔で笑った。





 三週間、三週間だ。一ヶ月程で<奈落の参道>をクリアしたいと考えていたが、三週間が過ぎた今日、私達は未だに二体のボスしか倒せていなかった。

「敵増援、支援要請! 進行方向八時、〈貪り食う汚泥〉っ!!」

 シロエの声がゾーンに響く。増殖する敵の数を速やかに減らすのは攻撃力重視で組み立てられた私達第三、第四パーティの仕事だ。シロエがかけたのだろう<アストラルヒュプノ>で眠る敵の元へと駆け寄った。
 ウィリアムの<ラピッドショット>を皮切りに、私達攻撃部隊の魔法が一斉に<貪り食う汚泥>に降り注ぐ。私もパーティのHPを調整する合間に、通常攻撃を叩き込むが盾役のプレイは完璧で、こちらに攻撃が漏れる事はなかった。

「いくよー。いっちゃうよー。もしボクに恋しちゃったらゴメンね?」
「いいからはやくしろよっ」
「てへ。ではいきます。みんなのリクエストに答えて。――聞いてくださいっ! 〈オーロラヒール〉!!」

 てとらと直継の陽気な声が聞こえる。てとらはおちゃらけた言動だが、とても優秀な<施術神官>だった。彼の装備――そう、少女の様な服装をしているが紛れも無い少年だ――は軽装で、本来ならば後衛でパーティのサポートを行う回復集中型であるが、彼は直継と共に並び立ち、くるくると踊る様に敵の攻撃を避けている。一歩間違えば危険なプレイスタイルだが、てとらは攻撃を受ける事無く第二パーティどころか、レイドパーティ全体の回復を担っていた。
 彼の恩恵を受け、パーティの仲間達と視線を交わす。

「一気に焼いてしまいましょう」

 心強い<妖術師>の声が聞こえた。

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引用元  ログ・ホライズン(橙乃ままれ著)   loghorizon @ ウィキ