That's what I'm here for.

 雨に降られ大地人の村へと立ち寄ったりと、道中寄り道はあったが私達は無事アキバの街へと辿り着いた。つまり、彼らとの旅路もこれでお終いである。
 移動や戦闘に関して互いのメリットを見出し組んでいいたパーティーであったが、私からしてみれば利益の方が大きいだろう。人間的にも、良識のある人達で悪くなかった。――いや、好ましい部類に入る。
 そんな彼らは、セララの所属している<三日月同盟>主催の宴に私も来ないかと誘ってくれた。しかし、元を正せば私は彼らとも、<三日月同盟>とも無関係なのだ。仲間内での催しに、殆ど貢献していな私が参加する権利はないだろう。

「お誘いは大変嬉しいのですが、<三日月同盟>さんとは関わりがありませんので憚ります」

 少し名残惜しい気がした。



05



 去って行くを見送る。少しは打ち解けたのだと思っていたが、こうして小さくなる彼女の背中を見るとその考えは間違いだった様だ。

「振られてしまいました」
「にゃんだか……随分と難しそうな子でしたにゃ」

 ひげを触りながらにゃん太が呟いた。





 アキバへ帰ってから数日、ソロでレベルを上げたり、宿屋でぼうっとして過ごしたりと非生産的な生活を送っていた。街で知り合いを見かけると、誰もが口々に幻想級アイテム<オートクレール>の話をする。何処で手に入れたか、どうやって手に入れたか、クエストの発生条件は――それを適当にはぐらかし、宿へと逃げこむ。アキバはススキノ程陰鬱ではない、しかしPKが横行していたりと、現状は何処にいても大差はなかった。最近では初心者に労働を強いているギルドもあると聞く。

「まあ、私には関係ないけど」

 現在の状況は私にとっては可もなく不可もなし。多少街の粗暴さに居心地が悪くは感じるが、それは私一人でどうにか出来る問題でもない。
 ――そう、一人なのだ。
 ギルドを抜けて、一人旅をしていた間は必死だったし、途中からは幸運にもパーティーに拾って貰えた。しかしアキバに帰ってきた今、親しい友人など誰もいない。孤独が身にしみる。
 プレイヤーなんて戦闘の出来るNPC程度にしか考えていなかった。エルダー・テイルが現実になっても、その態度を変えず、維持を張って他人を利用し距離を置いてきたツケがこれだ。
 生身の人間として一番長く接してきたシロエ達ならば、今更私が連絡しても受け入れてくれるだろう。でも、そんな他人の善意を利用する真似など――カッコ悪い。そう、惨めなのだ。寂しさに押しつぶされそうになっても、くだらない意地が邪魔をする。

「駄目だ、思考が悪循環している」

 そうだ、外に出よう。部屋に一人で篭っているよりはずっと気分が紛れる筈だ。そう自分に言い聞かせ、アキバの街の外れに佇む安宿の粗末な扉を押し開けた。

 アキバの街は珍しく活気があった。それになんだか、冒険者も大地人も浮ついている。何かイベントでもあったのか、と首を傾げたが喧騒の中心はすぐに見つかった。

「本日開店、<軽食販売クレセントムーン>です!」

 見覚えのある少女――セララが人混みの中心でビラを配っている。一枚貰おうと思い彼女に近づくと、彼女は大きな目を更に丸くして私の名を呼んだ。

さん!」
「お久しぶりです、セララさん。一枚頂いてもよろしいですか?」
「もちろんです! ありがとうございます」
「これは、猫神様が?」
「はい、そうなんですっ。にゃん太さんと、三日月同盟の人たちで作りましたっ! とってもおいしいので、食べてください!」

 セララに礼を述べ立ち去ろうとすると、彼女の背後から追加のチラシの束を持った背の高い女性が駆け寄ってくる。

「セララ! これ、チラシはこれで最後やから、もうちょっと頑張ってな!」
「はい!」
「それで、全部配り終えたら販売の方を手伝って欲しいんやけど……って、話し中やったんか。気ぃ利かんでごめんな」
「いえ、彼女からチラシを頂いていただけですので」
「マリエールさん、こちらがさんですっ!」
って、噂のもう一人の功労者やん!」

 そう言ってマリエールと呼ばれた彼女は両手を広げて私に抱きつく。豊満な胸を押し付けられ、目を白黒させる私に構わず彼女は続ける。

「こんな可愛い子だったなんて知らんかったわぁ! ほんまに助かってん、ありがとなー!」
「い、いえ、あの……」
「うちは<三日月同盟>のマリエール。マリエとかマリ姐って呼んでな」
「わ、私はです……マリエールさん、あの、周りの目が……」
「マリエ、また勝手に抜けだして! 遊んでいる暇なんてありませんよ!」

 何処からともなく現れた眼鏡の女性がマリエールを引き剥がす。あーん、もっとー、と嘆く彼女を押さえつけ、眼鏡の女性はキリッとした表情でこちらを見つめた。

「あなたがさんですか。わたしはヘンリエッタ、<三日月同盟>で会計をしております」
「ご丁寧に……と申します。道中、セララさんには大変お世話になりました」
「お、お世話なんてっ! 逆に私がされっぱなしですー!」
「本来ならばきちんとした場でお礼を申し上げる所なのですが、あいにく現在は多忙を極めておりまして……」
「そうや! ちゃんも食べてみ? うまいでー」

 そう言ってクレセントバーガーを渡そうとするマリエールを断り、頭を下げる。

「いえ、折角ですので並んで買わせて頂こうと思います。私の場合、この料理にかけられた手間も存じておりますので」
「遠慮せんでもええんよ?」
「お気持ちはありがたく思いますが、やはりルールには従いたいと思います。お忙しい中、お時間を頂いてしまい申し訳ありません」
「いつでも三日月同盟に遊びにきてやー! ちゃんなら大歓迎やで!」

 彼女達の背中を見送り、自分も列の最後尾に並ぶ。長蛇の列に並びたくなる人種はいると聞くが、私はどちらかと言うと避けて通りたい人種だ。かつては美味しい食事など何処にでも溢れていた為、並んでまで食べる必要もなかった。あくまでそれは現実での話だ。
 エルダー・テイル内では、風味のある食事など今ここにしかないのだろう。多くの冒険者や、更には大地人まで長蛇の列に並んでいる。陰鬱だった気分などいつの間にか吹き飛んでしまっていて、あの味がもう一度味わえる高揚感に旨を踊らせていた。

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