ワイトの消えた部屋に残された十代は、彼らは既にいないと言うのに興奮気味に早口でワイト達への質問を捲くし立てた。ハネクリボーは話せないのにどうしてワイトキングは人の言葉を話せるのか、なんて私に言わずにあの骨に聞いてくれ。取り敢えず、いつも以上にハイテンションな十代を宥めるのにテスト前以上の体力を必要とした事をここに表記しておこう。
「しかし驚いたぜ、も精霊が見えたなんて」
「私もつい最近まで知らなかったのよ、こんなメルへンの存在。
それで、一体何の用なの?」
「ああ、大徳寺先生から聞いたんだけど……昼飯、食ってないんだって?」
どうせデュエルだろう、そんな私の予想に反して、十代の手にはデュエルディスクではなく購買の袋が抱えられていた。こんな思いやりを持っていたのか(正直、私がアニメでの印象は自己中心的で周囲を振り回すような子供に見えたのだ)と口を開いたままぽかんとしていると、十代が抱えていた袋からドローパンを取り出し、ひとつひとつ丁寧に床に並べ始めた。
「食わないから貧血なんかおこすんだよ。夕食まで時間あるし、食うだろ?」
「いや、でも」
「でもじゃなくて! 食えよ」
「……うん」
「よし、。ドロー勝負だ、先行は譲るぜ!」
小さくドロー、と口の中で呟いて目の前の袋を手に取る。白い袋を破ると、何の変哲もないパンが出てくきた。中身はまだ何か分からない。特にこれと言った異臭もない。納豆パンやくさやパンと言う恐ろしいシロモノでもなさそうだ。ここで中身をのぞくのはルール違反だろうと、意を決してドローパンに齧り付く。
「……―――――!」
そしてそれをすぐさま放り出しキッチンへと走った。
「お! 幻のとうがらしパンじゃん!」
「……、うぇ……」
水道を捻り常温の水をそのまま流し込むと、辛いを通し越して焼けるように熱い口の中が少しだけ落ち着く。私の落した幻のとうがらしパンを拾い上げ、十代は羨ましそうに呟くが、彼の言葉を聞く程の余裕は今の私にはない。水でいくら濯ごうと口の中がひりひりと痛んだ。
「あり、えない……あんたそれ、好きなの?」
「は嫌いなのか?」
「好き嫌い以前に、これは人間の食べれる物じゃない」
「そうか? 俺は好きだぜ!」
「これを……? 食べかけでいいなら、あげるけど。元々私が頂いてる立場だし」
「やっりぃ!」
私のあげる宣言の直後、躊躇いなど欠片もなく十代は幻のとうがらしパンに齧りついた。こいつには男女間の遠慮など無いのかと呆れつつ、テーブルに二人分のお茶を用意する。
「じゃあ、これはどうだ?」
顔色一つ変えずに(むしろ喜色満面とも言える)幻のとうがらしパンを頬張る十代が、未開封のドローパンを差し出した。今度こそは、と最早当たりを引きたいと言う意地でふっくら焼けたバンズに齧り付くと、甘味と仄かな甘酸っぱさが口の中に広がった。
「セーフ」
中身はイチゴジャム。流石引きの強い十代だ、私にとっての外れは引かなかったらしい。安心して頬張っていると、水すら飲まずに幻のとうがらしパンを食べ終えた十代は、新しいドローパンを開けながらとてもいい笑顔で笑った。
「よし、食い終わったらデュエルだぜ!」
「ええー」
手のひらから始まる夢幻世界