時計の針は5時を指したばかり。悪夢のせいで、随分と早く目が覚めてしまった。汗で額に張り付いた前髪を鬱陶しげにかき上げて立ち上がると、素足に安っぽいカーペットがざらりとして、ここはブルーの冷たい石でできた床ではないのだと今更ながら実感した。
 寝間着のままで立ち上がり、カーテンレールに掛けてあったブルー女子の制服のポケットを探ると、直ぐに焼け焦げた銀の十字のペンダントが見つかる。これは夢の中の私が、弟の14の誕生日に贈ったものだ。向こうの私が生きていた証も、家族の遺品もたったこれだけ。一度死んだ自分が若返り、アニメの世界でもう一度として過ごしている。誰も信じない様なオカルトな話だけれど、大人であった私がただの夢であると、この銀のペンダントが否定させてくれなかった。
 そして、弟も否定させてくれなかった。毎日連絡をくれる弟は、火に捲かれた恐怖等なかったみたいにからりとした表情で笑う。今の私にとって、ある筈ない恐怖の記憶を理解してくれる弟の存在が唯一の救いでもあり、互いに記憶がある事が呪縛でもあると分かっていた。

 身支度を済ませ、レッドの制服に腕を通す。男物のそれは少し大きくて、糊の匂いがした。真新しい制服のズボンは大きすぎて、大徳寺先生に自分の持っている物を使用していいと許可を貰っていたので気に入っていた黒のパンツをはく。男物の制服にセミロングの髪が何だか不釣り合いな気がして、後ろで一つにまとめておいた。

 正直、レッドへの降格は私にとって願ってもない話だった。出席日数が必要ないのなら、今まで通り試験だけ受けても文句を言われることはないだろう。1度習った事のある必修教科は、復習すれば点数は取れたし今は教えてくれる心強い味方もいる。錬金術などの今までになかった授業はとても興味深く、この学校の図書室は私の第二の籠り場所みたいなものになっている。
 実技だって本を読んで勉強した。初めての実技試験は緊張で手が震えたが(そして声が小さいと注意を受けた。だって恥ずかしいじゃないか!)どうやら私にはアニメで遊城十代が使うことの出来た主人公補正、所謂デスティニードローが使えるらしい。来てくれれば、と思えば高確率で次のドローではそのカードを引けたし、ピンチの時には必ずうまく使えば逆転出来るカードが手札に着た。手札事故だって起きたことはない。


「6時半か」


 携帯ゲーム機相手に時間を潰していると、気が付けばあっという間に時計は針を進めていた。食事は7時からだが、レッド寮生と鉢合わせするのは少し気まずい気がする。本人から直接聞いたことはないが、噂でレッド寮の食事はトメさんが作っていると聞いが事があった。きっとトメさんなら、他の生徒が起きてくる前に朝食を取る事を許してくれるだろう。彼女とは普段会話を交わすことが多いので、多少の人となりは知っているつもりだ。
 音を立てないようにドアを閉め、鍵をかける。極力足音を殺して階段を降りると、下から2段目に寝そべっていたファラオがにゃあと短く鳴いた。



この手に残ったもの