「格下げ、ですか?」
私は鮫島校長の言葉を確かめるように繰り返した。珍しく真面目な顔をして、口を真一文字に結んでいる校長の隣では、口煩いを通り越して鬱陶しいと評判のクロノス教頭が憤慨している。まるで漫画に出てくるヒステリックな女みたいに、ハンカチを噛み締めて地団太を踏むクロノス教頭が、何だかとても鬱陶しくて、馬鹿みたい、と心の中で小さくこっそりと罵倒しておいた。
いや、これはただの八つ当たりだ。実を言うと私は、呼び出される要素も格下げになる要素もばっちりと心当たりがある、否、ありすぎて困るくらいだ。退学にならなかっただけ、鮫島校長に感謝すべきなのだろう。先程からくどくどと説教を続けるクロノス教頭を無視して、ちらりと校長に視線をやると、彼は何故だかとても優しい笑みを向けてくれた。
「聞いているのでスーカ !? これは前代未聞なノーネ! 女子がオシリスレッドなんて!」
特徴的な口調と、耳に残る声が私の思考を中断させ現実に引き戻す。聞いてませんよー、と心の中で呟いて(私の名誉の為に、口に出せないのは度胸がないわけではなく今後の事を考慮してだと宣言しておこう)いかにも反省してます申し訳なくて泣きそうです、と言った表情で小さく俯いた。鮫島校長がクロノス教頭を諌め、私を庇う声が聞こえる。効果は抜群だ。
「……しかしくん、君の出席日数では日数の関係ないオシリスレッドでしか進級出来ないのですよ」
「だカーラ! 鮫島校長は甘すぎるノーネ。やる気のないドロップアウトガールは、退学にしてしまえばいいノーネ!」
「まあまあクロノス先生。彼女のデュエルの腕は確かですし、成績も申し分ないのですから。退学にするのは良いデュエリストの芽を摘むのと同じで、私も気が引けます。
くん、君くらいの年齢は悩みも山のようにあるでしょう。ひとりで抱え込まず、いつでも相談してくださいね」
ぽん、と励ますように私の肩に手を置いた鮫島校長の瞳は、きらきらと夢を忘れない少年のように輝いていた。人間は単純なものだ。校長のデスクの上に置かれた新聞に目を向けると、今日の一面はどこか地方の学校の自殺問題だとでかでかと書かれていた。本当に人間は単純なものだ。鮫島校長にもクロノス教頭にも気付かれないように小さく溜息を吐く。
鮫島校長はとても良い人だと私は思う。けれどそれが教師や、時と場合によっては人を処罰しなければならない立場にいる人間としては、彼はあまり相応しくないと思った。良かれと思ってやってしまった事が、空回って裏目に出てしまうことも多い。私の心配をするよりも校長は他人を疑うことを覚えた方がいい。私は彼のそんな優しい性格を利用する為、落ち込んだ様に眉を下げて微笑んだ。
「先生方の御心遣い、感謝します」
一礼して校長室を後にする。後ろからクロノス教頭の聞き飽きたヒステリックな声が追いかけて来たけれど、小さくため息を吐いて無視を決め込んだ。
ドロップアウトガール