「遊城さん、こんにちは!」
「こんにちは翔、十代ならいないわよ?」
「いや、今日は遊城さんに用があって来たんだよ」
「あら、めずらしいのね」


 私よりも頭ひとつ低い少年は、椅子に腰掛ける私に臆することなく笑顔を向ける。初めてあった時の彼からは想像できないような眩しい笑顔に、自然と私も笑みを返していた。


「これ、新しく出たデュエル雑誌! ずっと寮にいるんじゃ、退屈だろうと思って」
「ありがとう、助かるわ」
「それとこれ、明日香さんから」


 そう言って渡されたのは、長方形のDAとロゴの入った機械。確かこれは生徒手帳だったと記憶している。


「えーっとPDA、だっけ?」
「うん、いつでも連絡取れるようにって。あ、使い方は分かる?」
「多分大丈夫だと思う。まぁ使いながら覚えるよ」
「分らないことがあったら聞いてね。あ、それと、明日香さんがメールしてほしいって」
「分かった。……幽霊と機械って相性悪いって言うけど大丈夫かなぁ。あ、翔のアドレスも教えてくれる?」
「もちろん!」


 最初は怯えて目を合わせることもままならなかった翔が、今の1番の話し相手になりつつある。確かに一緒にいる時間は部屋主の十代が多いが、彼は今開催されているデスデュエルのおかげで心身共に疲れ果てて帰ってくることが多いのだ。先日は入院までして、十代繋がりで知り合った明日香、剣山にヨハン、準に多大な心配をかけたらしい。


「翔、アカデミアは大丈夫なの?」
「……アニキたちが頑張って調べてるんだけど、肝心のコブラの所在がまだ分かってなくて。でも悪いことばかりじゃないよ、アモンくんって言う留学生の目が覚めて、コブラのいるかもしれない場所が分かったんだ!」
「それで、今から調べに行くのね?」
「うん、準備をして森の入口に集合なんだ。アニキはヨハンとデッキ調整してるよ」


 PDAのボタンを押しながら、翔のアドレスを登録する。新着メールを知らせる軽い電子音に従い、明日香からのメールを開くと今し方翔から聞いたこと、研究所に行くことが記されていた。翔に断りを入れて、明日香にメールを返しPDAを机の上に置く。


「じゃあ、僕はもう行くよ」
「翔……気を付けてね、十代たちをお願いするわ」
「僕じゃ、頼りになるか分からないけど…頑張るよ」
「ええ、あんまり帰りが遅いと、人目も憚らず私が迎えに行くから」


 私の言葉に、翔は笑顔で頷き手を振った。



怖がりのあの子も笑う



(20080819/ななつき)