04.Formation de la bataille

 袖の中に手を入れて、二本の大きめなナイフを構成して取り出す。全長60センチはあるマシェット――鉈だ。アレンの顔が青ざめるのが、遠目からでもよく分かった。


「では、記念すべき第一回目の訓練は接近戦です。尚、対アクマ武器の使用は禁止します《
「えぇ! 刃物対素手ですか!?《
「か弱い女の子と、見習いとはいえ神の使途であるエクソシスト。ハンデよ、ハンデ《
「ハンデって、僕が欲しいくらいですよ! それに、がか弱い女の子ってのも無理が……《
「――遺言は、それだけかしら?《


 地を蹴り、一瞬でアレンの胸元まで距離を詰める。二本の刃を擦り合わせてしゃきん、と音を立て、刃の峰でアレンの鳩尾に打ち込んだ。蛙の潰れた様な声を上げて吹き飛んだアレンは、そのまま割れた廃墟の窓から中へと突っ込む。


「早く起きないと建物ごと潰れちゃうわよ!《


 新しく構成したナイフを脆くなった廃墟へと投擲し、爆破させる。命からがら、倒壊する廃墟の中から逃げ出して来たアレンに向かって二本のマシェットを投げ打つと、彼は対アクマ武器を発動させてそれを防いだ。


「対アクマ武器は使用禁止って言ったじゃない!《
「発動させなきゃ死んでましたよ!《
「危機を乗り越えてこそ、人は強くなるのよ《
「強くなる前に死にます!《
「貧弱なもやしっ子め《
「もや……っ!《


 ちっ、と聞こえる様に舌打ちすると、アレンは反抗する様に声を上げる。それを無視して二振りのマシェットを再構成、投擲。アレンが覚醒した左手で薙ぎ払おうとしたところを爆破する。
 爆煙に紛れて、アレンは人の頭程の大きさの瓦礫を複数こちらへ投げ打ってきた。やられてばかりでもないらしい。小振りのナイフを構成し、爆破の威力を利用して撃ち落とす。
 右方向に気配を感じ転がる様に回避すると、光を湛えた左手が私のいた空間を切り裂いた。


「仕方ないなあ、今回は特別に武器の使用は認めてあげる《


 袖の陰で二振りのマシェットを構成、サイズは全長100センチにもなる大振りなものだ。ハンドルの部分が輪の様になっている。手慣らしに重さを感じさせないそれに指を通して回転させ、ハンドルの部分をきつく握り込んだ。
 距離を詰めて来たアレンの左手を二本のマシェットで受け止める。念の為マシェットの刃は潰してあるし、彼の対アクマ武器が傷つく事はないだろう。
 子供とはいえ、アレンはエクソシストだ。コンバートしていない体では流石に押し負ける。アレンの力を利用して、弾き飛ばされるように飛び上り空中で体制を立て直し、着地した。小型のナイフを構成し、地表へと突き刺す。ナイフを片足で踏み込み、爆破させる。爆風を利用して、距離を取ったアレンへと突っ込んだ。


「なっ!?《


 勢いを利用して標的の頭上から思い切り振り切る。アレンは左手で受け止めようとするが、踏ん張りが利かずに弾き飛ばされた。
 小柄な割には力もあり、スピードは十分ではあるが、あくまでイノセンスに強化されているからであり、アレン本人の身体能力では上十分だ。強化の必要がある。
 今後のトレーニングメニューを組みながら、マシェットをアレンに打ち込む。反射速度は悪くない。怪我に対する恐れもない様だが、これは諸刃の剣にも成り得る。
 戦術はワンパターン気味で、大いに改善の余地がある。体力も、もうじき限界の様だ。足腰の強化、及び体力作りとして走り込みを取り入れよう。そう考えながら、留守になっている足もとに足払いをかけた。体制を崩したアレンを抑えつけ、首元にマシェットを突き付ける。


「……僕の、負けです《


 アレンがイノセンスの発動を解き、両手を上げて悔しそうに呟いた。