「なぁ、いいだろ?」
「いや、ちょ、駄目だから!」
ヨハンがぎゅっと握りしめた私の両手をそっと握る。その仕草は、彼の視線はまるで壊れ物を扱うかのように柔らかだ。じんわりと、互いの両手から伝わる体温に私は柄にもなく流れに身を任せてしまいそうになった。ヨハンがふわっと微笑む。―――いけない、これは罠だっ!
「っ駄目!!どう頼まれても、駄目なものは駄目なんだから…!」
ヨハンの手を振り払うと、彼は不機嫌を隠そうともせずに溜息を吐く。
「何で駄目なんだよ」
「こ、これは私も1枚しか持ってないし。ね?」
「別にいいじゃないか」
そう言ってヨハンは私の両腕の中から無理矢理、[聖なるバリア−ミラーフォース−]を奪い取った。
「ああ!?」
「なぁ、頼むよ」
「だって、私1枚しか持ってないし…」
「いいだろ?このカードがあったところで、お前どうせ弱いし」
このジャイアンデルセンめ!
「ねぇ十代」
「ん?」
「ヨハンって最悪だよね」
「そ、そうか?」
(20080823/ななつき)
初めてのヨハン。日記に挙げたものを加筆修正。
と言うかこんな夢(睡眠時見る方)を見ました。
でもやっぱり落ちは十代。
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「遊城…?」
通りすがりざまに上着をがしっと掴まれて呼ばれた名前。戸惑いながらも振り返ってみると、俺よりも頭一つ分くらい背の低い女の子が茶色い目を零れんばかりに見開いて俺を見つめていた。向こうは俺を知ってるみたいだったけど、俺の記憶の中にはこんな可愛い子、どんなに探しても見つからなかった。薄く施された化粧が、童実野高校のピンクの制服とよく似合っている。
「あれ、もしかして分かんない?中3の頃同じクラスだった、」
「え、!?あの男女のか!」
「失礼ね、男女は余計よ」
。俺の記憶の中では髪が男みたいに短くて、口調も今みたいに女の子っぽくはなくて、とにかく男友達みたいなクラスメイトだった。男女混合の体育の時はやたら運動神経がいいに何度も挑んで負けた記憶がある。他の女子みたいに化粧とか音楽とか恋愛とかそんなものには全くの無関心で、部活の陸上にだけ命を注いでいた。
「なんか、変わったな」
「ちゃんと女の子らしくなったでしょ?」
「ああ…」
そんなが、卒業して1年以上経ってそこら辺にいる女子以上に可愛くなって俺の目の前にいるなんて、何だかおかしな気分だ。あの頃と違って、小麦色の肌は白くなり髪も肩まで伸びている。でもよく見ると笑顔はあの時のままで、さっぱりと笑う顔が中学の頃のと重なった。
「遊城は、なんで童実野町に?確か、全寮制の学校に行ったんじゃなかったっけ」
「修学旅行だよ。は、童実野高校に通ってるんだな。遊戯さんと同じ学校か、うらやましいぜ!」
「遊戯さん…?ああ、決闘王だっけ。あんた、昔から好きよね、そのカードゲーム」
「ああ、デュエルは何が起こるか分からないからな!わくわくするんだ」
「私からしてみれば、遊城の方が何をしでかすかわからないから面白かったわ。そっちは、同じ学校の人?」
が示した方向には翔と剣山が口を開けて固まっていた。俺はそんな二人を腹の中でこっそり笑いつつ、紹介する。
「ああ、こっちが翔で、こっちが後輩の剣山」
「よ、よろしく…」
「よろしくお願いするドン」
「…ずいぶん、濃いお友達ね。私は、遊城と同じ中学だったの。よろしくね」
やわらかくほほ笑むに、翔と剣山はほんのりと頬を染めた。だよな、可愛いよなこいつ。中学の頃の粗雑さが信じられないくらい女の子になった。俺はあの頃のさばさばして男友達よりも男らしいも好きだったけど、こうやって女の子やってるも好きだと思った。
「は、実家から童実野高校に?」
「まさか!親戚の家から通わせてもらってるの。童実野高校は学生寮がないから」
「そうなのか。陸上は、まだやってんのか?」
と言えば陸上だった。毎日、日が暮れるまでトラックを走って肌を黒く焼いていた。ただ今の彼女はあの頃とは違い白い肌をしている。何の考えもなしに聞いた俺の問いに、は少しだけ悲しそうに笑った。
「…やめたの、陸上」
「え、なんで!」
「高校入ってすぐに、膝、壊しちゃってね。激しい運動は出来ないの。……それで、いい機会だから陸上に打ち込んでて疎かになってた女の子をやろうと思って」
その成果は、遊城の顔を見ると十分みたいね。がさっぱりとした笑顔で微笑む。
「あ!ごめん遊城、私これから塾なんだった」
「塾って…お前も真面目だよな」
「友達の付き合いでだよ。まぁ、今日はその子サボりなんだけど……じゃあ、行くね」
「ああ」
「今度会ったら、デュエルモンスターズ、だっけ?教えてよ」
ばいばい、は手を振ると振り向きもせずに早足で立ち去った。彼女の鞄に付けられた制服と同じ色のキーホルダーが動きに合わせて揺れる。俺はその背中を無言でただ見送るだけだった。
「またって……あいつ、連絡先も知らないのに会える訳ないだろ」
「アニキ、よかったんスか?」
「んー、まぁがまたって言うんならまたどっかでひょっこり会うかもな」
「卒業おめでとう!私もあんたも進む道は全然違うけど、あんたとはまたどこかで会う気がするんだよね」
頭の後ろで腕を組むと、不意に真黒に日焼けした彼女の言葉を思い出した。
(20080927/ななつき)
十代を遊城と呼ぶヒロインが書きたかっただけ。
中学まで男子は名字で呼び捨てが殆どだったのですが、高校に入って皆が皆君付けだったのにショックを受けた覚えがあります。
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「十代、ユベルがぁ…!」
が瞳にいっぱい涙を溜めて言う。俺は苦笑気味に年の離れたいとこの頭をそっと撫でた。
「どうしたんだよ、」
「ユベルが、ユベルが…」
デュエルアカデミアを卒業してから実家に帰ったのは数えるほどしかないが、正月くらいは顔を出そうと数か月ぶりに帰宅した。実家には案の定母さんの妹夫婦が来ていて、しばらく見ない間に大きくなったもいた。
「相変わらず、は泣き虫だよな。もう、6年生だろ?いい加減、これくらいで…」
「ち、違う!もう私中学生だよ!」
「え…?じゃあ尚更だな」
「うっ……だってぇ…」
「あーもう、お前に何言ったんだよ、ユベル」
『別に、ボクは真実を言ったまでだよ』
「ユベルの嘘吐き!十代、ユベルがね!」
「ああ、静かに!俺たち以外にはユベルは見えないんだから、変に思われるだろ?」
「お母さんたちは正月早々出来あがっちゃってるから大丈夫だよ!そんな事より!ユベルが十代はアカデミアに恋人がいるって!」
『ちょっと!ボクは恋人だなんて一言も言ってないよ!』
「でも十代を想ってる人がいるんでしょ?同じことだよ!」
二人のやり取りに帰ってから何度目か分からない溜息を吐く。精霊が見えるらしいは帰って来てからというもの暇があればユベルと口論を繰り返している。いや、ユベルもを気に入ったのか事あるごとにちょっかいを出すのだ。
「俺を想ってる奴なんかいる訳ないだろ?」
「だってユベルがー」
「あーもう、たまに帰ってきたんだからゆっくり休ませてくれよ…」
「たまに帰ってきたんだから遊んでよ!」
『いい加減にしなよね、。駄々をこねる子は嫌いだよ』
「う…別にユベルに嫌われたって……」
『泣いてるくせに』
「泣いてなんかない!」
が乱暴に涙を拭う。ユベルも少しやりすぎだ。
「ほら、、ユベル。デュエリストなら、決着はデュエルで、だろ?」
「ん。……いい、ユベル!ライフは4000!」
『ボクに挑むなんていい度胸だね。後悔しても知らないよ』
「『デュエル!』」
(20081013/ななつき)
年下ヒロインが書きたかっただけです。
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短いスカートが捲れるのも構わず全力疾走してきたは、僕の目の前でぱちんと手を合わせて頭を下げた。彼女が僕に頼みごとをするときはいつもこうだ。頭を下げてお願い!と叫ぶ。僕は呆れたように溜息を吐き、渋りながらも最後はの上目使いに押し切られてしまう。これは、惚れた弱みと言うやつだ。だけど今回の彼女の願いは、僕にいつもの行動を許さなかった。
「お願い、エド!私と結婚して!」
思わず口に運んでいた紅茶を吹き出しそうになってしまう。どうにか堪えはしたが、無理やり飲み込んだ紅茶が気管に入ってしまい噎せる僕にが慌ててハンカチを差し出した。
「…うっ、結婚だと?」
差し出されたそれで口元を拭う。ちょっと待て、結婚だと?僕たちは―――彼女に好意を抱いている自分としては些か不本意だが―――ただの学友であり、親が決めた許婚でもなければ恋人でもない。
「お願い!エドじゃ…エドじゃなきゃ駄目なの!」
の言葉に思わず赤面してしまう。
「う、あ…僕は……」
戸惑いどもる僕に、彼女は衝撃的な―――落ちとも取れる―――言葉を告げた。
「お願い、私と婚約してるフリをしてほしいの!」
「………フリ?」
「うん、フリ!」
事の経緯はこうだ。
彼女、はおしとやかと言う言葉とはかけ離れているがとある企業の社長令嬢。蝶よ花よと育てられてきた彼女が両親の反対を押し切って全寮制のデュエルアカデミアに入学した。過保護なの両親が下した条件は一つ、卒業までにに見合う恋人を見つけなければ、両親の用意した相手と有無を言わず、
「結婚……だと?」
「今の時代に政略結婚とか、時代錯誤な両親とは分かってるんだけど…」
「押し切った手前、この条件には逆らえない、か…」
「うん。もうすぐ卒業でしょう?私、顔の知らない相手とは結婚したくないし、だからと言ってデュエルアカデミアでうちの会社……カンパニーと釣り合いが取れる人間って言ったら、エドか去年卒業した万丈目くんや海外の大会で活躍してる十代さん、それとプロリーグを設立しようとしてる丸藤兄弟しかいなくって」
「それで、一番身近にいる僕に白羽の矢が立ったって訳か」
期待して損した、と心の中で独り言ち溜息を吐き出す。
「エドはプロで有名だし、駄目、かな…?」
「具体的には何をすればいいんだ?」
「と、取りあえずうちの親と会って、付き合ってる宣言をしてもらえれば……」
「例え僕が名乗りを上げても、僕たちが結婚しない限り君の両親が退くのは一時的なもので解決にはならない」
「わ、わかってる!卒業後まで、エドに迷惑かける訳にはいかないし……絶対!卒業後は頼らないから!」
「別に僕はそこまでは…」
「だって!……エドにもその、す、好きな子とかいるもんね。あんまり、迷惑かけないから…」
は視線をあからさまに逸らして腰に下げたデッキケースをもぞもぞと触った。その殊勝な様子がいつもの御転婆な彼女とはあんまりにもかけ離れていて可愛らしくて、僕はあからさまに大きなため息を吐いて、の細い腰を引き寄せる。彼女は大きな目を零れんばかりに見開いて、戸惑いの声をあげた。
「え、エド!?」
「恋人のフリをするんだろう?今からキスくらい練習しておいた方がいいんじゃないか?」
kiss
白い頬にひとつ落とすと、それは面白いくらい赤く染まった。
(20081023/ななつき)
メッセで知り合った方に「エドかいてよ!」と言われたのでプロを。難産です。難しいんだよこの不死鳥野郎!
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私は叫び声を上げなかった自分へ盛大な拍手を送ろう。
半歩前に手を伸ばそうとしたままの体制で固まる十代、そしてその先にはいつもの人を小馬鹿にしたような顔で腕を組む万丈目がいる。ここできゃあ等と少女じみた声を上げたりなんかしたら、万丈目が黙っていない。先日、こいつとは血で血を洗う様な決闘をしたのだ、笑いのネタにされることは目に見えている。
「大丈夫か?」
「あ、うん。ありがと、ヨハン」
地面と宜しくする寸前に背後から支えてくれたヨハンにお礼を返すと、十代は面白くなさそうに唇を尖がらせた。俺が助けるはずだったのに、と頬を膨らます姿は贔屓目を抜いても愛らしい。
「フン、相変わらずトロい女だ」
「相変わらず他人の上げ足捕るのが上手ね、万丈目」
「サンダー!」
「はいはい、こんな奴に構ってたら日が暮れるわ。行きましょう、十代」
「おう!」
十代に手を伸ばすと、彼は笑顔で握り返してくれた。十代の隣には私がいて、私の隣には十代がいる。これは当たり前の公式みたいなものなのだ。
strict secrecy
が当たり前のように十代に手を伸ばす。十代もそれを当たり前のように握り返して微笑む。大好きな親友たちのやり取りに、俺はちくりと胸が痛んだ。
「ヨハン?どうしたの、早くしないと置いてっちゃうわよ?」
「ああ、わりぃ!」
の声に俺はいつも通りの笑顔を作る。それを見て十代は少し訝しがるような顔をしたが、は気づかずに十代の手を引いて再び歩き出した。
俺の日本での恋は、気づいてすぐに終わった。
太陽みたいな笑顔を振りまいて、少しだけ気の強い彼女は親友の恋人だった。ただそれだけの話だ。二人の仲を裂く気はしないし、この想いを打ち明けるつもりもない。ただ、愛しみ合う二人を見るのは少し辛かった。
「なぁヨハン、お前なんか最近おかしくないか?」
「…っ」
感のいい十代が口を開く。そんなことない。どうしてだか否定の言葉がすぐには出てこなかった。
「…まぁ、無理には聞かねぇけど…気が向いたら、離してくれよな!」
「ああ、十代。悪いな」
十代が太陽みたいな顔で笑う。
もしも十代とが別れたら、なんて考えたこともある。でも俺は、彼女に事が好きだけれどこの二人の関係は壊れてほしくはないと思った。親友を犠牲にして手に入れた幸せなんて欲しくない。そして何より、俺は十代の隣で笑ってるが好きなんだ。
二つ並んだ太陽に眩しそうに目を細めて、俺は乾いた地面を蹴った。
(20081023/ななつき)
前半部分だけだけど、いつ書いたかわからないものが出てきました。書いてあったメモ↓
>ヨハン→ヒロインの事が好き。
>でも、きっとヒロインと十代が並んでるのが好きなんだ。
>かたおもいばんずあい!
誤字がひどい。
私は多分十代×ヒロイン←ヨハン(ユベル)って構図が好きなのかもしれません。ばんずあい!