夢を見た。あいつが笑ってる夢。夢の中では俺も笑ってるのに、起きたら腹の中は虚しさでいっぱいだった。隣で眠ってる翔たちを起こさないように小さく自嘲の笑みを洩らす。


「寂しいとか、思ってんなよ…」


大事だから置いてきた。連れて行ってくれと泣くあいつを無理矢理閉じ込めた。それがあいつの……の為だと思った。
新しく旅立つ異世界が、決して安全だとは限らなかったから。だけは安全で、信頼できる人たちがいる世界で笑っていて欲しかった。例えあいつが俺と来ることを望んでいたとしても、俺は俺自身のエゴを押し通した。だから…俺が会いたいだなんて思っちゃいけない。
自分の感情をごまかすように小さく息を吐いて、目を閉じた。


(20081002/ななつき)

ヒロインの事が好きで守る為に置いてきた3期十代。愛してるから遠ざける…ってギアスか。
それにしても短すぎる。





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「ばーか」
「何だよ、いきなり」
「いつまでもうじうじ引き籠ってるばかにばかと言いに来たのよ」


ベッドに寝転がる十代に、天然水のペットボトルを投げつける。しばらく見ない間に変わった彼は、いつの間にか男の子から男の人へと変わっていた。


「何があったかなんて聞かないけど、私は謝らないわよ」
「どうしてお前が謝る必要があるんだよ。俺が…」
「そして、あんたの謝罪を受け取るつもりもないわ」
…」
「あんたが私を助けられなかったことも、私たちが……覇王を目覚めさせる切欠だったことも、全部不可抗力。仕方がなかったこと。誰が悪いんじゃないの。それでも、あんたは納得しない訳?」
「……俺は、取り返しの付かないことをしたんだ」
「だから、翔や明日香や剣山を避けるの?私を避けるの?悪いと思ってるんなら逃げてばかりいないで謝罪の一つくらいよこしなさいよ」
「ごめん……」
「だから謝罪なんていらないわ!」
「……じゃあ、どうすりゃいいんだよ」


十代は鬱陶しそうに溜息を吐く。


「十代」
「………」
「他の皆がどうかはわからないけど、私は……十代の性なんかじゃないって分かってる。私たち、これまでうまくやってきたじゃない。こんなところで終わるの?」
「例え…お前が俺を許したとしても、俺が俺自身を許せないんだよ…」
「十代…」


開け放たれた窓から入り込んだ風が私の髪を揺らした。十代が好きだと言ったから伸ばしてきた髪。私は勢いよく立ちあがり、引き出しの中に無造作に置かれていたカッターを手に取り、自慢でもあった長い髪を首元からばっさり切り落とした。十代が飛び起きる。残っている髪を更に切り落とそうとする私の両腕を彼が乱暴に掴むと、カッターがカーペットの上に音もなく落ちた。


「お前、何やって…!」
「十代が!……十代が触らないなら、伸ばしてる意味なんてない!毎日シャンプーとか大変だし、長いと枝毛とかも出てくるし、でも!十代が私の髪好きって言ってくれたから伸ばしてたの!
 それが何?ちょっと気まずくなったから全部捨てるの?私たちが積み重ねてきたものって、こんなことで崩れちゃうくらいちっぽけなものだったの?」
…泣くなよ」
「泣いてない!泣いてなんかない!」


頬を涙が伝っているのは分かってる。でも、自分が泣いているのを認めるのは癪だから流れる涙もそのままに、きゅっと両手を握りしめて、うろたえる十代を睨みつけた。


「辛いのが、自分だけとか思うな!ばか!十代が痛いなら私も痛いの!どうしてわかんないの?成長したって言っても、オツムはそのままじゃない!ばか!ばか十代!」
「…そんなに、ばかばか言うなよ」
「ばかにばかって言って何が悪いのよ!でも、そんなばかを心底好きな私が……私が1番ばかじゃない!」
…」
「あんたが何だって構わない!十代は、十代でしょ…!」
「そうだな、ごめん」


ありがとう


『随分と激しい女だね』


泣き疲れて俺の腕の中で眠るを抱え直すと、ユベルが不機嫌そうに腕を組んであらわれた。


「いつもは冷静で、余裕ぶって高みの見物決め込んでる奴だったんだけどな」
『これがかい?』
「俺が、ここまで追い込んだんだな」
『十代、ボクはこれの事をよくは知らないけれど、言い分には賛成だよ。自分を責めるのはよくない……と言っても、ボクが言える立場でもないけどね』
「ユベル…。こいつといい、お前と言い、俺の周りにはお人好しばっかだな」


短くなった彼女の髪を撫でると、あの頃と同じ香りがした。



(20081006/ななつき)





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「キリトリ線みたい」


十代の手首の線をなぞりながら呟くと、十代はぎょっとした顔で手を引いた。


「気持ち悪いこと言うなよ」
「私は欲しいなぁ、十代の手」
「俺は嫌だ。手がなくなったらデュエルが出来なくなるだろ!」
「デュエルが、出来なくなる…?」
「そうだよ、手がなかったらカードも持てねぇし」
「……そっかぁ。十代がデュエル出来なくなっちゃうのかぁ」





力いっぱい振り下ろすと、ようやくそれはごとりと音を立てて転がった。月の光に爪がきらきらして、拾い上げるとずっしりとした重さ。十代の手だ。両方とも机の上に綺麗に並べて、ぼろぼろと涙を流しながら声をあげる十代をぎゅっと抱きしめた。


「じゆーだい」
「う、ぁ……何で、こんな事」
「これで、デュエルなんかせずにずっと一緒にいられるね。十代は口を開けばデュエルデュエル。私、ずっとずっと淋しかったんだよ?」
、お前…」
「デュエルなんかせずに………あれ?
 でも、これじゃあ、もう十代に抱きしめて貰えないね…」



(20080912/ななつき)

日記からサルベージ。リアルに自分が見た夢。





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「……っ…」
、どうしたの?泣いてるの?』
「ゆ、べる……」
『どうしたんだい、。誰かにいじめられたのかい?」
「ち、違うの…」


お母さんが、十代のためにユベルを遠くにやると言った。十代。私の可愛い双子の弟。ユベル。十代の大切な精霊。ユベルがオサム兄さんを傷つけたから、ユベルが悪い子だからお父さんとお母さんはユベルを宇宙に送るんだって。


「ユベルは十代のためと思ってやっただけなのに。おかしいよね、すっごくおかしいよ」
……いったい、何があったんだい?話してくれないと、ボクにはわからないよ』


溢れる涙を乱暴に拭う。ユベルが心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「ユベル…ごめんね、私、言えないの。何があったかなんて言っちゃいけないの。ごめんねユベル、十代のためなの」
『……十代の為なら、ボクは何も聞かないよ。でも、忘れないでね。ボクは十代と同じくらい、の事が大好きなんだ。だから、十代が笑ってても、が泣いてたらボクは悲しいんだ』
「ゆべるぅ…!」


ユベルに抱きつくように手を伸ばすけど、精霊には触れられないから私両の手は空を切った。ユベルが困ったように微笑む。ユベル、ユベル。私もあなたが大好きなの。でも、お父さんもお母さんも十代もみんなみんな大好きなの。


「ユベル、私どうしたらいいかわからない…!どうやったら、みんな幸せになれるんだろう」
『ボクは、君と十代が笑ってくれてるだけで幸せだよ』
「……ほんと?」
『ボクは君たちには嘘は吐かないよ』
「わ、私も!ユベルには嘘を吐かない!だから…!」
?何してるの?」
「お、お母さん!」
「明日はお出かけって言ってたでしょう?早く寝なさい」
「……私、行きたくない…」


明日が来たらユベルは遠くに行ってしまう。お母さんたちは、ユベルがいい子になったら戻ってくるって言ってたけど、ユベルはいい子だから、私はお母さんたちの言ういい子の基準がわからなくて、ずっとユベルと会えない気がした。


「わがまま言わないの!ほら、十代はもうぐっすりよ、おやすみ」
「おやすみなさい、お母さん。…………おやすみ、ユベル」
『おやすみ、。いい夢を』


delete


「……お母さん」
、どうしたの?」
「わからない。なんだか、とっても悲しいの」


なんだか胸にぽっかりと大きな穴が開いたみたいに、不安で、淋しくて私は泣いていた。何かが足りない気がする。でも、それが何かがわからない。


「姉ちゃん、泣くなよ。俺、姉ちゃんが泣いてると悲しい」
「十代……」


が泣いてたらボクは悲しいんだ」
あの子もそう言っていた。でも、あの子って誰だろう。


(20081007/ななつき)

ユベルが大好きです。





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ヨハンを探しに再び訪れた異世界。ヨハンの友人として、何より、十代の姉として私は彼らを守る義務があった。


「……十代…?」


次元の扉を抉じ開けて、光の渦へ飲み込まれ気づいたら真っ暗な空間にいた。一寸先は闇、自分の指先すら見えない。自分が寝そべっているのはベッドらしく、体を起こすと小さな音を立てて軋んだ。


「ああ、。目が覚めたんだね」


闇の中に、微弱な明かりが燈る。最近では見かけることの少なかった、弱々しい蝋燭の灯。その灯に映し出されたのは。


「……ヨハン!」


私たちが探していたヨハンだった。蝋燭の灯に照らされて、闇の中に浮かぶ彼はゆっくりと微笑む。それは、いつもの彼とは違って見えた。


「よかった、無事だったのね!皆もあなたを探して……て、ヨハン、皆はどこ?」
「ここには君とボクだけだよ」
「はぐれたの?じゃあ、探しに行かないと…!」


手探りでベッドから立ち上がると、ぐらりと体が傾く。それを支えたヨハンの腕は、酷く冷たい。


「駄目だよ、。まだ休んでいないと」
「ありがとう、ヨハン。でも、十代たちが…」
「大丈夫、十代なら…もうすぐここに来る。ボクたち3人で新しい世界を作るんだ」
「せ、かい?ヨハン、あなた何を…」


微笑むヨハンの瞳が、オレンジ色に煌めいた。おそらく、感じていた違和感はこれだ。ヨハンとは、そう長い付き合いでもないけど彼の人となりはよく知っていた。ヨハンはこんな口調ではない。ヨハンはこんな事言わない。……ヨハンはこんな顔では笑わない。


「あなた…誰?」
「……、ボクはヨハンだよ」
「違う、ヨハンじゃない」
「ボクがヨハンじゃなかったら、誰だって言うんだい?」
「…………ユベル?」


ヨハンの姿をしたユベルが、驚いたように目を見開く。でも彼はすぐに、昔みたいな優しい笑みで微笑んでぎゅっと私を引き寄せた。


「キミなら、気づいてくれると思ったよ、
「…私、怒ってるのよ?皆を危ない目に合せて、傷つけて……」
に怒られても怖くないよ」
「ユベル!」


姉ちゃんは、ユベルに甘いよな。昔、十代に言われた言葉が蘇る。
私たちを異世界に送ったり、生徒たちをデュエルゾンビにしたり、ユベルを怒ったり憎んだりする要素はたくさんある。でも、私は確かにこの再開を心のどこかで喜んでいた。


「ユベル、皆に謝って終わりにしよう?私はユベルがいい子なのは知ってるから、ユベルが十代たちと傷つけあうのは、辛いよ」
……でも、それじゃ駄目なんだ」
「どうして?十代も今は怒ってるけど、本当はユベルの事大好きなんだよ。十代も、ユベルが反省してるって分かったら昔みたいに……」
「ボクは十代を愛しているよ、勿論、キミも」
「だったら、なんでこんな事…!」
「傷つけ合う事が愛なんだ。十代が…ボクに教えてくれた」
「ち、違う!そんな事、十代がそんな事する筈ないじゃない!」


立ち上がろうとする私の目元をユベルがそっと抑え、ベッドに逆戻りさせられる。


「心配しないで、。ボクはこれから十代と愛を確かめ合ってくるだけだから」
「ユベル…やめ……」


蝋燭の炎が、大きく揺らめいた。その灯に照らされた彼がそっと微笑むと、急な眠気に襲われた。



reinstall






あの頃より長くなった彼女の髪に触れると、あの頃と変わらない優しい彼女の香りがした。今は、ゆっくり眠ってて。


……ボクと十代が戻ってきたら、またあの頃みたいに笑って迎えてね」



(200810112/ななつき)

最初は、十代のお姉さんはDAの教員でした。でもそうなると一応ユベルの体はヨハンなので、「いけません、あなたは生徒で私は教師…」みたいなノリになってしまうので急遽生徒に。
切るに切れなくてだらだらと長くなってしまいましたが、こっそり上の続きです。上のタイトルが「デリート(消去)」そしてこれが「再インストール」。
暗黒使徒ヨハンはヨハンと言うより、ユベルなのでユベルユベルした話になってしまいました。だってユベル大好きなんだもの!こんな可愛い子が女の子の訳ryと思っていたら海外版で見事打ち砕かれました。