「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
十代のライフは2800、対して私は400。手札越しに彼を見ると、勝利を確信した笑みを返された。
「私のターン、ドロー!」
「どうした?調子が出ないみたいだな」
「う、うるさいっ!私は手札から[強欲な壺]の効果発動!」
あと1枚!たった1枚であの十代を倒す事が出来る。でもその1枚が来なければ十代のフレイムウィングマンのモンスター効果で私の負けは確実だ。
大丈夫、自分のデッキを、カードを信じれば…!
「デッキから、カードを2枚ドロー!」
最後のチャンス、緊張から起こる手の震えを抑えながら、ドローしたカードを見て、乱れていた呼吸が止まった。
「十代……悪いけどこの勝負、勝たせて貰うわ!」
「来い、!」
「私は…っ」
手札の6枚の内5枚を右手に持ち換え、声を張り上げる。
「手札より、[封印されしエクゾディア]を召喚!」
「エクゾディア…!?」
「いけ!怒りの業火、エクゾディア・フレーム!!」
「うわああああああっ!」
十代のライフが0になる。彼は悔しそうに、だが楽しそうに笑った。
「楽しいデュエルだったぜ、!」
「十代…こちらこそ!」
「お前、エクゾディアなんてすっげぇカード持ってたのか!こんなレアカード、どうやって手に入れたんだ?」
「うん、小さい頃バトルシティを見学に童実野町に行ったんだけどね。そこのホテルで知り合ったマリクくんって言うお兄さんが譲ってくれたんだ!」
「(マリクってレアカードを密造してたって言うグールズの総帥だった気が…)、そのエクゾディアはあんまり使うなよ」
「ん?そうだね、中々揃わないし。それにレアカード持ってて盗まれたりしたら大変だしね!ありがと、十代」
「(そう言う意味じゃないけど)…ん、うん…そうだな」
(20080706/ななつき)
マリクは表人格のほうです。デュエルを純粋に愛するヒロインに心打たれ、オリジナルを渡しました。部下はコピーでいいや、みたいな感じで(自分は神使うし。
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「あ、遊城くんだ」
購買の人混みの中、茶色い頭がひょこひょこと揺れている。遊城十代、彼はオシリスレッドの希望の星と呼ばれているデュエリスト。その名に恥じない実力は、あのカイザー亮と引き分ける程だ。
「あら、さん。彼に興味がありますの?」
「えー!よりによって遊城十代ぃ!?、アンタ趣味悪いわよぉ!」
モモエとジュンコの早合点に、わざとらしくため息を吐く。本当に女と言う生き物はこの手の話が大好きだ。
「違うから。…ただ、遊城くんの引きの強さが羨ましいだけ。私もあの人くらい引きが強ければなぁ」
「分かりますわ!」
モモエがうっとりした顔で胸に手をあて、目を閉じる。彼女の横ではジュンコが面白くなさそうに腕を組んでいた。
「強さから来る憧れ…そして、憧れが恋心に変わる…!」
「…えぇー」
何故そうなる。
モモエの思考に全力で突っ込みたくなる。だが、彼女のぶっ飛んだ考えを不思議に捉えたのは私だけだった。
「仕方ないわね…がそんなに好きなら、応援するわよ」
「だから、好きとかじゃないから!」
ジュンコの勘違い発言に今度こそ全力で突っ込む。
「別に隠さなくていいわよ」
「そうですわよ、殿方に恋をするのは当たり前の事ですわ」
だが、奴等は手強かった。私の話など聞きもせず、勝手に盛り上がる二人に本日2度目のため息を吐く。それをモモエが目敏く見つけて詰め寄ってきた。
「大丈夫ですわ、さん!今は接点がなくとも、少しずつ距離を縮めていけば…」
「だから…好きなんかじゃないんだってば」
「もう、しらを切るのもいい加減にしなさいよ!」
「う、わぁっ…!!」
ドン、とジュンコに押されバランスを崩す。不意の攻撃に私の体は持ちこたえられず、後ろにいた誰かを巻き込み倒れこんだ。
「いったぁ…!」
打った頭を抱えながら体を起こす。くらくらする頭で巻き込んでしまった被害者を探すが、私の真後ろに座り込んでいた人物で思考が停止した。
「ゆ、遊城くん…!」
「アニキ、大丈夫っスか?」
「俺は別に何ともないけど…ずいぶんハデにいったな。すっげぇ音したけど、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。本当にごめ…!」
遊城十代はにっこり笑って手をさしのべる。戸惑いながらもそれを頼りに立ち上がると、忘れていた痛みと目眩が襲って来た。
「本当に大丈夫か?頭打ったんなら、鮎川先生に診てもらった方がいいんじゃないか」
「いや、そこまでは…」
「あら?アンタ怪我してるわよ」
私の否定の言葉を遮って、ジュンコが遊城くんの少しだけすりむいた腕を指差す。
「あなたも保健室に行ってくれば宜しいのではないかしら。わたくし達はクロノス先生に用件がありますので、さんをお願いしますわ」
「…ジュンコ、モモエ?」
「いいぜ、じゃあ…だっけ?一人で歩けるか?」
「……え、あの…」
事態を飲み込めず、呆然とする私に遊城くんは眉を寄せた。
「おい、打ち所が悪かったのか?じゃあ早いとこ鮎川先生に診て貰わないと…!」
「…!」
何を勘違いしたのか、彼はそう身長のかわらない私をひょいと抱き上げ走り出す。彼の肩越しにジュンコとモモエの楽しそうな声が聞こえた気がしたが、私にはそんなことに構ってられる余裕は欠片もなかった。
「あ、あの…遊城くん!私大丈夫だから!」
「無理すんなって。何かあってからじゃ大変だろ?」
「でも…私、重ぃ……」
顔に熱が集まるのが分かる。確かに遊城くんには憧れていたし、興味もあった。でも、初対面でこんな事になるなんて…!
「遊城、くん…大丈夫だから…!」
「もう着くから大人しくしとけって」
「だから恥ずかしいんだってばああああああぁっ」
小さな親切
「先生ー怪我人!」
「あらあら、元気ねぇ」
(20070709/ななつき)
消えてしまったやつを記憶だけ頼りに復元。PCの強制終了とかまじで勘弁してくれ。
下はこれの十代視点。
**********
倒れこんだ痛みの中、状況を確認すると俺は内心ガッツポーズを決めた。目の前で座り込んで頭を押さえる人物がオベリスクブルーのだったからだ。
「いったぁ…!」
頭を押さえうずくまる彼女にかける言葉を選んでいると、突然は顔を上げ機敏な動きで辺りを見回す。そして同じく座り込んだ俺を確認すると青白い顔で呟いた。
「ゆ、遊城くん…!」
彼女が俺の名前を呼んだことに、思わず緩みそうになる口元を必死に抑える。全くと言っても過言でないほど、接点のなかった彼女が俺の事を知っていてくれたのだ。嬉しくない筈がない。
「アニキ、大丈夫っスか?」
「俺は別に何ともないけど…ずいぶんハデにいったな。すっげぇ音したけど、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。本当にごめ…!」
翔の声に、慌てて立ち上がり彼女に声をかける。内心緊張しつつ手をさしのべると、は戸惑いつつも俺の手を取って立ち上がるが、刹那、痛みに顔を歪めて頭を押さえた。心なしか足下も覚束ない様に見える。
「…!本当に大丈夫か?頭打ったんなら、鮎川先生に診てもらった方がいいんじゃないか」
「いや、そこまでは…」
辛そうに頭を抱えながら言われても説得力は全くない。どうにかして保健室に連れて行こうかと思考を巡らせた。だが、予想外の場所から入った助け船により、事はスムーズに運ぶことになる。
「あら?アンタ怪我してるわよ」
「あなたも保健室に行ってくれば宜しいのではないかしら。わたくし達はクロノス先生に用件がありますので、さんをお願いしますわ」
ジュンコとモモエだ。明日香とも仲のいい彼女たちとは何度も面識がある。俺は二人に感謝しつつ、―――に声をかけた。
「いいぜ、じゃあ…だっけ?一人で歩けるか?」
「……え、あの…」
。彼女の名前を口にする。ずっと前から知ってはいたけど、呼ぶことの出来なかった名前。俺の言葉に戸惑うが、否定の言葉を口にする前に行動してしまうおうと、俺は自分より少しだけ背の低い彼女を抱きあげた。
「そんなに打ち所が悪かったのか?じゃあ早いとこ鮎川先生に診て貰わないと…!」
「…!」
は俺の腕の中で顔を真っ赤に染める。やばい、やばいくらい可愛い。
「あ、あの…遊城くん!私大丈夫だから!」
「無理すんなって。何かあってからじゃ大変だろ?」
「でも…私、重ぃ……」
平常心を装い、返すも何だかこじ付けっぽい理由になってしまった。幸い、今の体制に慌てるは気づいていないようだ。
「遊城、くん…大丈夫だから…!」
「もう着くから大人しくしとけって」
もうすぐ昼休みが終わり午後の授業が始まる。わざと、教室沿いの廊下を走ると、他の生徒達の視線が集まった。その中には明らかに羨む視線も混じっている。派手な明日香の影に隠れてしまいがちだが、彼女の魅力に気づいているのはやはり自分だけではないのだ。勝ち誇ったように口元を歪めると、両手に力を込めて強く引き寄せた。
「だから恥ずかしいんだってばああああああぁっ」
は気づいていないのだろうか。彼女のよく通る声こそが、注目を集める要因になっていることを。
chance!
(まぁ、いい牽制にはなるよな)
(20080710/ななつき)
打算的な遊城十代。十代は結構頭がいいと思います。勉強は駄目だけど、知恵は働く、みたいな。でもオツムは弱い?うーん、どうやって表現すればいいんだろう。
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「好きなもの?」
腕を組んで少し考えるような仕草をした後、は相変わらずのマシンガントークを披露した。
「やっぱり1番はデュエルかな?次はおいしいもの。でも明日香やレイちゃんを始めとした女子高生もすごく好き。あ、レイちゃんは女子高生じゃないのか。でもすっごくおいしい設定だよね、飛び級で女子高生だなんて。
後は……うーん、翔くんとかサンダーとか剣山くんも好きだよ。吹雪さんは優しいし、丸藤のおにーさんはかっこいいし。あ、クロノス先生も好き。だって私を無事3年に上げてくれたから。それから…」
「わかった、もういい」
俺は1番に自分の名前が出てこなかった事に落胆する。あれ、俺たちって付き合ってるんだよな?明日香を通じてに出会って、好きになって告白して、付き合いだして…もしかして俺の妄想か?
「十代、どうしたの?急に黙りこんだりして」
「いや…自分の記憶を疑いたくなっただけだ」
「ふぅん、変な十代。でも大丈夫よ、十代の今までなら私がしっかり記憶してるんだから!」
胸に手を当て誇らしげには微笑んだ。普段なら可愛いなこいつ、で済まされるが如何せん今はそんなテンションではない。俺はおずおずと口を開く。
「なぁ…」
「うん?」
「好きなものの中に……俺の名前がなかったんだけど?」
我ながら女々しい質問だ。俺の中の覇王が嘲笑した気がした。そんな俺の心配を余所に、彼女は太陽のように笑む。
「もう、違うよー!十代は」
愛してる!
「………はっず、かしいね…」
「照れるくらいなら言うなよ」
「十代も真っ赤だよ…」
「うるせぇ」
(20080711/ななつき)
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「駄目、全然駄目」
「あ〜!もうわかんねーよ!!」
大きくバツのついたプリントを突き返すと、その生徒は頭を抱えて机に突っ伏した。
「遊城くんあなた、もう3年でしょう?漸化式くらい理解してもらわないと困るのよね」
「先生…簡単に言うけど人間には向き不向きってのがあってさぁ」
「授業中起きて話を聞いたらこのレベルの問題は誰にでも解けます」
「う゛」
遊城十代。デュエルアカデミアでは名の知れた生徒だ。ちなみにクロノス教諭のお気に入り。彼には人を惹き付ける力があると、失踪した佐藤教諭が言っていた気がする。
私にとってはただの生徒。3年間数学を受け持ったけれど、解答用紙が白紙で帰ってくることも珍しくない、問題児。手のかかる生徒程可愛いと他の教諭たちは言うけれど、私にとっては面倒でしかなかった。わざとらしく深いため息を吐く。
「ため息吐くと幸せが逃げるぜ」
「誰が吐かせてると思ってるのよ」
「耳が痛い言葉…」
「反省してるんなら早く合格してくれない?」
辛辣な嫌味を投げかけても彼は苦笑するだけ。どれだけ叱っても、いつもけろりとした顔で仲間たちの所へ戻る遊城十代が、私は苦手だった。
「遊城十代」
「…先生」
「パーティ、終わっちゃうわよ」
「俺の出番は終わったんだよ」
悟りきった様な表情。この1年で彼はすっかりと変わった、大人びた。これを成長と呼んでもいいのだろうか。子供が無理やり大人になってしまったような彼はどこか危うい様にも見える。
だが、その心配をするのは私ではない。彼はもう、私の生徒ですらないのだ。
「…卒業、おめでとう」
「せん…」
「先生、なんてもう呼ばないでくれる?私、もうあなたの先生でもないもの」
「……」
「それに、私、教師なんて大嫌いよ。クロノス教諭みたいな立派な教師、私にはなりたくてもなれないもの」
自嘲するように微笑むと、十代は力強い瞳で私を射抜いた。
「…先生が何と言おうと、先生は俺の大事な恩師だよ」
「な…!ガキがいっちょ前に…」
彼は少し幼さの残る笑みで微笑む。
「先生、いつも文句言いながらも最後まで付き合ってくれただろ?俺、数学なんか死んでもごめんだったけど、卒業できたのは先生のおかげだよ」
「……本当に、卒業するのね」
「へ?」
「いつまでも手の掛かる鬱陶しい生徒だと思っていたけど……遊城十代が卒業か」
「鬱陶しいって…」
「卒業、おめでとう。あなたは私の受け持った生徒の中で1番、型破りで手の掛かる生徒だったわ。その記録はこれからもきっと、破られることはないでしょう」
腕を組み直し、いつの間にか私よりも高くなっていた彼の顔を見上げた。
「あいつなら、あんたのなくしたものを取り戻してくれるわ。そこの毛玉に付いて行きなさい」
「毛玉…」
『クリクリー!』
「そんなの、毛玉で十分よ。それじゃあ十代………………さよなら」
「先生………お世話に、なりました」
彼の声を背に受ける。だけど私は振り返らない。
遊城十代、とても手の掛かる生徒だった。いなくなって清々した。だけど、胸に空虚感の様なものを感じた。ああ、彼は私の中でもこんなに大きな存在になっていたのか。
「手の掛かる子ほど可愛い、か……」
誰が言ったかも分からない言葉だが、馬鹿に出来ないなと暗闇の中独り言ちた。
(20080711/ななつき)
ヒロインは決闘王と知り合いで社長の推薦でDAに来たとか言うどうでもいいし全く生かせてない設定が存在してたりします。