「「トリックオアトリート!」」


ドアを開けると狼男と吸血鬼が満面の笑みで両手を広げていた。


「十代に、ヨハンまで…何やってんの?」
「ほらほら、お菓子をくれなきゃ悪戯しちまうぜ?」
「まぁ俺は、悪戯でも構わないんだけどな」


大口を開けて笑いながら物騒な事を言うヨハンの口に、昨日明日香と焼いたパウンドケーキを突っ込む。ふごぉ、と情けない声を上げて苦しそうにもがく吸血鬼の背を、耳を垂らした狼男が摩る姿は何だかシュールに見えた。


「げほ、あれ?なんでがケーキなんか持ってるんだよ。ダイエット中って聞いてたから悪戯出来ると思ってたんだけどなぁ」
「情報提供は明日香。吹雪さんが十代たちを巻き込んで良からぬ事考えてるって聞いたから」
「バレバレだったのかよー!せっかく驚かそうと思ったのに」


不服そうに口元をつんと尖らせる狼男にラッピングしたパウンドケーキを差し出すと、先程までの不機嫌が嘘みたいに目を輝かせる。きっと彼に生えた尻尾が気持ちと連動しているのなら、今はちぎれんばかりに振られているのかもしれない。


「つか、ブルーの寮ってやっぱ豪華だよな!」
「俺も女子寮は初めてだな。内装もこっちとはこっちとは違うみたいだし」
「そう言えば、女子寮って男子禁制なんだけどよく許可貰えたね」
「いや、許可と言うか……」
「俺たち、勝手に入ってきただけだもんな」


なぁヨハン、と笑う十代の後ろで、はす向かいの部屋の鍵が回ったのが見えた。私は説明もなしに二人の手を思いっきり引っ張り部屋の中へと押し込み、ドアを閉める。その際聞こえた声は無視して鍵をかけ振り返ると、十代とヨハンは仲良く頭を抱えていた。


「いってぇー!」
「おい、いきなり何するんだよ!」
「静かにして。ブルー寮と言えど防音は完璧じゃないんだから」


真顔で返すと二人は気まずそうに顔を見合わせ頷く。未だに座り込む二人を前に私は、小さな子供に語りかけるようにゆっくりと口を開いた。


「いい?女子寮は男子禁制、侵入したとなれば謹慎どころか十代の成績じゃ退学もあり得るんだから」
「俺は?」
「アークティック校に強制送還じゃない?」
「そいつは困るな…」
「まぁ今から昼食の時間帯だから人通り多くなると思うし、落ち着いてから出て行った方がいいよ」
「えーだったら俺達昼飯抜きかよ!」
「……匿ってもらえるだけありがたいと思いなさい」


小さくため息を吐き、備え付けの小さなキッチンへと向かう。許可したわけでもないのに十代とヨハンは勝手にテーブルに座り、デュエルディスクなしでのデュエルを始めようとしていた。







「くっそー、後もう少しだったのに!」


白熱した机上のデュエルの後、頭を抱えながらデッキを広げるヨハンと、2戦目に突入する気満々でデッキシャッフルする十代に紅茶とパウンドケーキを持っていく。


「お、ケーキだ!いっただっきまーす!」
「あげたのと同じなんだけどね、今はちょっと間食をセーブしてるからお菓子もなくって…」
は食べないのか?」


二人分のケーキを前に、ヨハンが不思議そうに紅茶を含んだ。日本人と違ってティーカップが妙に似合う彼は、横暴でジャイアニズムを発揮する事が多いが気配りは十代より出来る。目ざとい、と言うと聞こえが悪いがヨハンには隠しておきたい事を指摘されるのだ。まぁ、空気を読んで黙っておかないあたりがヨハンなのだが。


「いやさ、だから私ダイエット中…」
「ちょっとくらい大丈夫だって」
「いやいや、そう言うちょっとした油断が死を招くんだよ!」
「そういうものなのか?」
「何か、大げさな話だな。はそのくらいでちょうどいいと思うぜ」
「ほら、十代だってこう言ってることだし」
「…………待て、その手は何を求めている」


ヨハンの右手に握られたフォークには私作のパウンドケーキが乗せられている。問題は、そのフォークの切っ先が私に向けられていることだ。


「だからほら、あーん」
「いや、ちょっとそれはないでしょう」
「あーん」
「……えー」
「………
「あ、あーん」


無言の圧力により開かれた私の口の中にケーキが押し込まれる。口の中の水分を奪うそれに少しせき込みながらも飲み下すと、ヨハンは満足そうに、そして十代は不服そうにこちらを見ていた。


「うまいだろ」
「いや、作ったの私なんだけど」
「……、ほら」


あーん、とヨハンに便乗して十代までもが私にケーキを差し出す。拒むような視線を送ると、「ヨハンからは食べたのに」と不貞腐れたように唇をツンとされたので仕方なしに十代からのケーキも受け取る。十代は満足そうに声を出して笑った。


、顔真っ赤だぜ。悪戯完了、だな!」



Happy Halloween?





(20081031/ななつき)

30分くらい誤魔化してもいいですよね?ハッピーハロウィーン!
十代にしようかヨハンにしようかひたすら迷って、結局二人にしたら恋人でもないからいちゃつきも出来ないし、ヨハンにスポット当てたら十代が空気になってしまったという難産でした。今度からはちゃんと分相応に一人ずつお相手させていただきたいと思います。