「遊城くん、だよね?」
「ああ」
「私、


明日までだけどよろしくねー、と付け足し微笑むと彼も太陽みたいな笑顔を返してくれた。私たちは明日、共に命運を賭けてタッグデュエルに挑む。こう言うと少しばかり大袈裟に聞こえるのだが、ナポレオン教頭のありがたーいお話で立ったまま寝てしまった私たちは、負けたら開かずの第4倉庫(ここ数年放置しっぱなしで酷い有様らしい)の罰掃除が待っている。


「ナポレオン教頭も酷いよねぇ、たった1日しかくれないなんて」
「そうだな。ま、俺達なら大丈夫だろ?」
「うわー遊城くんの根拠のない自信にすごく励まされるー」
「お前さ、褒めてないだろ、それ」
「あ、バレた?」
「バレバレだっての!」
「あはは、ごめんごめん。あ、遊城くんってさ」
「待った。その、"遊城くん"ってのやめねぇ?」
「えー?じゃあ十代くん?」
「十代でいいって。俺もって呼ぶし」
「きゃー、呼び捨てですか遊城くん」
「呼び捨てですよさん」
「……」
「……」
「「ぷ」」


二人で顔を見合わせて大笑い。初対面でなんとなくだけど、十代とは気が合う気がした。女子寮には入れないからレッド寮に行こうぜ、って言う十代の申し出に二つ返事で頷き、校舎から1番離れた所にあるオシリスレッドの寮へ向かう。レッド寮は今まで立ち寄る機会がなかったから場所すら知らなかったけど、噂で聞いてた通りの寮だ。


「あ、万丈目だ」
「サンダー!」
「ホワイトサンダーだったね」
、貴様何を訳の分からない事を言っている!」
「忘れたの…?私が何度「宗教は間に合ってます」って言ってもしつこく勧誘してきたくせに!」


十代の部屋に通されると、どこの寮にも分類されない真っ黒な上着を着た万丈目がベッドに寝転んでいた。


「万丈目と同室だったんだ」
「まぁな。って、万丈目とは知り合いだったのか」
「1年の頃親睦を深めたんだよねー」
「だ、誰が貴様なんかと!」
「万丈目ってさ、かなり面白いんだよね。打てば響くってぇの?律義に突っ込んでくれるし。それに色が白いからすぐ赤くな」
!お前はもう黙れ!」
「あーあ、怒られちゃった」


わざとらしく両手を広げると、万丈目は不機嫌そうに鼻を鳴らし、十代は両手で口元を押さえてぶっと吹き出す。そんな正反対の二人の様子を笑いつつ、どか、っとカーペットに胡坐をかいた。


「あ」
「え?」
「悪ぃ、見えた」
「……十代のえっちー」
「お、お前が見せたんだろ!」
「あははごめんごめん、お目汚し失礼しましたー」
「いやいや、結構なお手前でした」
「そう言うところがやらしいんだよ」


カードを取り出して空になったデッキケースを投げつけると、十代のおでこに当たってスカンと軽い音が響く。いてーと言いながらあまり痛くなさそうに頭を抑える十代を見て、またこっそり笑った。


「十代ってさ、ヒーローデッキだったっけ?」
「まぁな。エレメンタル・ヒーローとネオスペーシアンは俺の大切な仲間だぜ」
「ふーん、じゃあ私もヒーローデッキでいいかな」


最近使ってなかった融合中心のエレメンタル・ヒーローデッキの中身を適当に確認して、ケースに仕舞い直す。十代のデュエルは何度か見たことがあったし、何とか罰掃除は免れる様な気がした。打ち合わせとかしても十代は明日には忘れてるだろうし。


「よし、じゃあデュエルだ!」
「えー、どうしてそうなるのさ…」
「お互いのデッキを知るには、デュエルするのが1番だろ?」
「ちょっと正論っぽいのがむかつく」
「つべこべ言ってないで、始めようぜ!」
「わ、分ったからちょっと待ちなさい!万丈目、デュエルディスク借りるよ!」
「「デュエル!」」
「ええい、お前ら外でやれ!」










手札を確認して、私は対戦相手のオベリスクブルー生へ向かってにやりと挑発的に笑った。


「十代、悪いけど見せ場は貰ったわ!私は手札の[沼地の魔神王]と場の[スパークマン]を融合。来なさい、[E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン]!
 このカードは自分の墓地の「E・HERO」という名のついたカード1枚につき攻撃力が300ポイントアップするわ。私の墓地にE・HEROは5体、よって攻撃力は4000!」
「攻撃力4000だと…!?」
「シャイニング・フレア・ウィングマンで[ドラゴン・ナイト]を攻撃!シャイニング・シュートッ!!」
「…っ」
「更にモンスター効果よ。破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを受けてもらうわ」
「うわあああぁ!」


相手のライフが0になると、会場が割れんばかりの歓声が響く。後ろで満足そうに微笑む十代と視線が絡むと、彼はいつものポーズでいつものセリフを言った。


「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」










「そう言えばさぁ。お前、まじで俺のこと覚えてねぇの?」
「は?」


レッド寮の貧ぼ……趣深い夕食をご馳走になって、寮まで送ると言ってくれた十代と一緒に女子寮までの道を歩く。アカデミアの絶好のサボりスポットの1つでもある泉の横を通りかかった時、十代が遠慮気味に口を開いた。


「遊城十代でしょ?」
「いやそうじゃなくて!」
「どういうことよ」
「だから、俺のこと知らないのか?」
「え?だから遊城十代でしょ?」
「だからそう言う意味じゃなくってー!」
「何この無限ループ。十代の言いたい事がよく理解できない」
「あー…もう!」


もういい!言わんばかりに頭を掻き回して、十代は自分の上着のポケットに手を突っ込む。


「これ、お前だろ?」


差し出したのは少し端が折れた写真。自分で自分たちを移したのか、少々ピンボケ気味ではあるがそこには小学校に上がる前の私と、男の子がドアップで映っていた。


「これ…田舎のおばあちゃん家に泊まった時の…」


私が6歳の頃、母が臨月に入った為一夏の間田舎にある祖母の家に預けられた時期があった。家族が増えるのよ、弟ができるのよ、そう言って母は笑っていたけれど私は新しい家族に自分の居場所が奪われてしまう様な気がして、友達を作るでもなく一人で過ごす憂鬱な毎日。そんな時、祖母の家の近くの神社で出会ったE・HEROとユベルと言う悪魔を使う少年に、デュエルモンスターズを教えて貰ったのだ。


「………ゆうきくん?」


茶色い頭にE・HERO、極めつけが"ゆうき"と言う名前。


「やっぱり、気づいてなかったのか」
「は?えーっと……………えぇ!十代がゆうきくんだったの…!?」
「俺は、入試デュエルでお前が試験管とデュエルした時に気づいてたぜ?」
「だったらどうしてもっと早く言ってくれないのよ!」
「……だって、、お前俺のことなんて覚えてなかったみたいだし。って言うか、お前こそなんでいつまでたっても気付かないんだよー」
「ゆうきくんってゆうきが名前だと思ってた。ついでに、年下だと思ってた」
「なっ!」
「そっかぁ、十代がゆうきくんだったのか。
 でもさー十代はどうして10年以上経った今でも、10日くらいしか遊ばなかった私のこと、覚えててくれたの?」


風に踊る短いスカートの裾を手で押さえながら十代に問いかけると、彼は少しばつが悪そうに答える。


「あー………………初恋、だったんだよ」
「…あら」



拗ねたように視線を逸らす十代の頬は、うっすら夕焼けに染まっていた。



Retrouvailles!



「また 、会えてうれしいわ。久しぶりね、十代」


(20080911/ななつき)

タイトルはフランス語でRetrouvailles(レトルバ)、再会という意味。
十代はヒロインの事がまだ好きだったらかわいいなぁと思います。
写真見ながら「早く気づけよ、ばーか」とか言ってたり、ヒロインに気づいて貰う為に学園代表とかになってたらさらに可愛いと思います。